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法華三部経の要点 ◇◇53
立正佼成会会長 庭野日敬

十二因縁は人間教育の教え

差別心が争いを生む元凶

 化城諭品に説かれる根本仏教の大切な二法門のもう一つは、十二因縁の教えです。これは、人間がどのように生まれ、どのように成長し、どのように老死に至るかという原因と条件(因縁)およびその結果との関連を十二の段階に分けて説き、それらの変化・成長が心の変化・成長と密接にからまっていることを解明されたものです。
 しかも、単に個人の人生におけるものだけでなく、同時に、数十億年前の原始的生物から今日の人間に進化するまでの経過をもたどってあるのです。それらの所説は、二十世紀の生物学者・生理学者・心理学者が解明したこととほぼ一致しており、二千五百年も前に直観によってそれを悟られたお釈迦さまの偉大さには、ただただ驚嘆のほかはありません。
 その法門全体については、紙面の都合上ここで解説し尽くすことはできませんので、わたくしの著書『法華経の新しい解釈』や『新釈法華三部経』の化城諭品の章を読んで頂くとして、ここにはその要点中の要点だけを述べることにしましょう。
 この記事を読んでいる方はすでに青年期に達しておられる(あるいはそれ以上の)方だと思いますので、十二因縁の中の「取」以下に特に心を留めて頂きたいと思います。経文にはこうあります。
 「取は有に縁たり、有は生に縁たり、生は老死・憂悲・苦悩に縁たり」
 「取」というのは、愛着を覚えるものごとをどこまでも追い求めていこうとする欲望と、いったん手に入れたものはしっかりつかまえていたいという気持ち。反対に、ただ感情的にきらいなものに背を向ける気持ち。それを「取」と言います。
 こうした「取」が生じると、同じものごとに対しても、人によって違った感情・違った考えを抱くようになります。そこで、他人と自分との間の差別という意識がハッキリしてくるのです。そうした差別心を「有」と言います。
 その差別心があればこそ、人と人、民族と民族、国と国との対立が生じ、争いが起こり、苦の人生が展開するようになるのです。ですから、仏教で説く「人間の本質すなわち仏性の平等」をわれわれ自身が常に心中に確立しているばかりでなく、その真実を多くの人々に知ってもらうように努力しなければならないのです。それをしないかぎり、人間みんなが苦から逃れることはできないのです。

胎教と幼児教育の大切さ

 もう一つの要点は、これから生まれてくる生命を、また、二、三歳になった幼児たちを健全に育てるために、十二因縁の前半「受は愛に縁たり」までを深く理解することです。   
 「識は名色に縁たり」は、まだ胎内での状態です。ところが、生理学者が明らかにしたところによりますと、人間の大脳皮質の神経細胞の数は約百五十億個あるが、驚くべきことにはその百五十億個が胎児のうちにすべてつくられてしまうのだそうです。ですから、妊娠中の母親の精神のあり方がその子の一生に重大な影響を与える……というのです。
 昔は胎教ということをやかましく言いましたが、ひところの浅い科学万能思想から、近年までそれが無視されていました。しかし、最近の進んだ科学は再びそれをよみがえらせたのです。お釈迦さまが十二因縁をお説きになった真意の一半はやはりそこにあったのではないかと推察できます。
 また、「六入は触に縁たり」から「受は愛に縁たり」までは、幼児期の段階です。この時期の保育の善しあしがまたその子の一生にとっての重大な分かれ道になることは言うまでもありません。特に「受」すなわち感性を美しく育てることを、世の親ごさんたちはよくよく心得て頂きたいものであります。


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