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法華三部経の要点 ◇◇105
立正佼成会会長 庭野日敬

信仰の奇跡とは人格が変わること

子が父を正法に導いた

 妙荘厳王本事品は、最高の親孝行とはどんなことかを言外に説いた、じつに大事な一章です。それは、はるかむかしにおられた妙荘厳王という国王と、その后(きさき)と、二人の王子の物語にことよせて説かれています。
 后と二人の王子は仏法に帰依し、通達していましたが、王はほかの教えに心酔していましたので、なんとかして仏法のありがたさを知らせてあげたいと思っていました。二王子の師である雲雷音宿王華智仏という仏さまが法華経という至上の教えをお説きになることを聞き、ぜひ父の王をも誘って聴聞に行きたいと思い、母の后に相談しました。すると后は「父上の心を動かすには、おまえたちが奇跡を現してみせるほかはない」と言うのです。
 そこで王子たちは父王の前に行き、空中に飛び上がって空の上を歩いたり、地の中に自由自在に潜ったり、さまざまな不思議を見せました。父王は驚いて「おまえたちはだれにそんな神通力を習ったのか」と聞きますと「法華経という教えをお説きになる雲雷音宿王華智仏という仏さまです」と答えます。王は「その仏さまにわたしもお目にかかってみたい」と言い出しました。
 王子たちは大喜びしましたが、この機会をのがさず出家してずっと仏さまのみもとで仏道修行をしたいと母の后にお願いし、許されます。こうした二王子の熱意と后の理解あるはからいによって、王は、自分ばかりでなく、大臣たちをも、女官たちをも、そして多くの国民をも引き連れて仏さまのみもとへ参りました。そして、みんな仏法に帰依したのでありました。

自分が変われば人も変わる

 この品には四つの要点があると思います。その第一は、二王子が演じた奇跡というのは、仏法を学び、信じて行ずることによって、人格が一変し、したがって日常の行いがすっかり変わったことを意味するのだ、ということです。
 ひとを仏法に導くには、それを説いてあげるのももちろん大切なことですが、身をもってする実証がいちばんの決め手となります。自分が変わってみせることです。とくに、家族や職場の人を導くにはこれを欠いてはならないのです。いわゆる「後ろ姿で導く」ことであります。この説話にはそういった教えがこめられているのです。
 第二の要点は、王の信仰が、大臣たちや、女官たちや、国民にまでも感化を及ぼしたということです。こういう指導的立場にある人が正しい信仰に入った場合、その影響はじつに計り知れないものがあるのです。
 信仰はもともと個人の自由で、政治とか権力とかが介入すると不純なものになります。しかし、衆に尊敬されている指導者が正法の信仰に入ったために多くの人たちが自然とそれに感化されていくということは、けっして不純なことではなく、きわめて正しい影響といわなければなりません。
 ですから、多くの人の上に立つ人は、どうか正しい信仰を身につけてほしいものです。もちろん、それを部下に押しつける必要はありません。正法の信仰によって生ずる人徳が自然と人びとを感化するからです。


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