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法華三部経の要点 ◇◇99
立正佼成会会長 庭野日敬

孝行は人類の将来の幸せのため

釈尊は孝を大いに説かれた

 妙音菩薩品に、うっかりすると見過ごしやすい大事な言葉があります。それは、妙音菩薩がお釈迦さまにごあいさつして申し上げた言葉にある「(衆生の中には)父母に孝せず、沙門を敬わず、邪見不善の心にして五情を摂めざることなしや不(いな)や」とある、その「父母に孝せず」です。
 父母恩重経(ぶもおんじゅうきょう)という孝行を説いた有名なお経が中国で出来た偽経であることや、総じて仏教経典が漢訳されたときに孝行を重んずる思想が加えられたことなどから、ほんらい仏教はあまり孝行を重視しないように誤解している向きがありますが、右のあいさつの言葉からも、むかしのインドでも孝行が普遍の人倫だったことがよくうかがわれます。
 原始仏教経典にもそれがよく現れています。たとえば、法句経の三三二番に「母を敬うことは楽しい。また父を敬うことは楽しい」とあり、南伝増支部経典には「母と父とは梵天ともいわれ、先師ともいわれる。子らの供養すべきもので、また子孫を愛する者である。だから実に賢者は食物と衣服と座床と塗身と沐浴と洗足とを以て父母に敬礼し尊敬せよ。このように父母に仕えることを以て、この世でもろもろの賢者がかれを称讃し、また逝かばかれは天上に楽しむ」(中村元先生訳による)とあります。
 お釈迦さまは親孝行の大切さを大いに説いておられるのです。

孝行は本来楽しいもの

 もっと留意すべきは、お釈迦さまが親孝行を身をもって実践されたことです。たとえば、おん父上の葬送のとき自ら棺をかつがれたことと、そのときおおせられたお言葉は、後世のわれわれの胸にひしひしとこたえるものがあります。
 浄飯王般涅槃経によりますと、「後の世の人びとが凶暴になって父母の養育の恩に報いない不孝の者が出る心配があるから、それらの衆生に範を示しておくために、わたしも父上の棺をかつごう」とおおせられ、棺の前部をお釈迦さまと難陀が、棺の後部を阿難と羅睺羅がかついで野辺の送りをされたのでありました。思うだに尊い、厳粛な光景ではありませんか。
 なお、お釈迦さまご自身が入滅なさるとき、いわゆる北枕(きたまくら)にして臥床(がしょう)されたのは、北の方に当たるカピラバストのご両親に絶対に足を向けてはならぬという尊敬の念から発したものとされています。この一事を見てもお釈迦さまがいかに徹底した孝心の持ち主であられたことがわかります。
 父母のことを思い、父母を大事にするのは人間自然の心情です。まさに、さきにあげた法句経の「楽しい」というお言葉のとおりです。
 ところが、戦後この自然の心情が薄れ、親をないがしろにする風潮が生じてきました。親をないがしろにする気持ちは、先祖を敬わない気持ちにつながり、そして子孫を大切にしない気持ちにもつながります。これは人類の未来のためにゆゆしい一大事です。
 立正佼成会で親孝行と先祖供養を説くのは、決して「過去」を大事にするばかりのものではありません。それが人類未来の幸せにもつながるからであります。


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