頬ずり魔に閉口
京都会議の前年に準備会議があったんですが、会場も京都と決まり、予算もどこの国がいくら出すかということも決まって、いよいよ最後のくくりを付けようという段階になって、たまたまいらっしゃったのが今回お会いしたボエフスキーという髭面の人なんです。この方は、例の桶のような帽子をかぶっていない、いつでも普段着を着た、神父ではなくして博士なんだそうです。今回行ってみて分かったのですが、この方はロシア正教の渉外部長なのだそうです。神父さんでもないのに会議にはいつも出てくるものですから、ソ連政府の廻し者なのかなあだなんて思っていた。
今度ソ連にまいりましたら、そのボエフスキー博士は、私共が行ったのがよほど嬉しかったらしく私共一行6人全員に頬ずりをして出迎えて下さった。びっくりするほどの大男なんですが、喜こんで夢中になって頬ずりする人です。こっちは髭が痛くてたまらないんですよ。しかし、向うではそれが最高のサービスなんですね。そういうようなことで、私共は彼に〝頻ずり魔〟という仇名を付けた。「それ、また頬ずり魔が来たぞ」と。 (笑) もう、長いこと待っていた。それがようやく来てくれたというので、サービスのつもりで一生懸命に頬ずりをしてくれる。
特別待遇の中で
モスクワの空港に着きますと、出迎えもたくさん来て下さいまして、パスポートを渡して下さいと言うのでパスポートを渡した。荷物も預るというので荷物も預ける。そういうことで全部取り上げられて空っぽになっちゃった。そして、皆さま方の荷物は届けておきますから、どうぞホテルの方へ、もう、迎えの車が来ておりますから」と。なにしろパスポートを取られちゃっていますから、もう、どこにも行くことができない。パスポートも荷物も全部取り上げられちゃって、そしてさっさとホテルへ……。
自動車に乗りましたが、たぶんソ連で一番いい車でしょう。赤信号でもピィピィとクラクションを鳴らして、他の車を全部止めて大威張りでサァッと通っていく。お巡りさんは、日本と同じように木剣を持っておりまして、二尺ぐらいはあったでしょうか、その先に電灯が付いておりまして、それを使って「早くお通りなさい」と。もう、どこへ行っても「天下ご免‼」でまことにけっこうなんです。
そして、ホテルに着きますとちゃんと部屋割りもしてあり、荷物も届いておりました。日本では入国する時に「トランクを開けろ」とか荷物がどうしたとかあるわけですが、ソ連では私共の荷物を全然調べないで、「どうぞ、どうぞ」と一つも文句を言わないで、まったくの特別待遇なんです。