全ページ表示

1ページ中の 1ページ目を表示
法華三部経の要点 ◇◇83
立正佼成会会長 庭野日敬

身辺のマイナス現象をもプラスに

「他事を示す」とは何か

 寿量品には重要な句がいろいろあります。その中でも特に大切なものの一つはこれです。
 「如来の演(の)ぶる所の経典は、皆衆生を度脱せんが為なり。或は己身を説き、或は他身を説き、或は己身を示し、或は他身を示し、或は己事を示し、或は他事を示す」
 衆生を迷いから解脱させるためには、まず仏について説くのにもいろいろな説きかたをするのだ……というのです。あるときは、仏の本体(己身)について説くこともあれば、あるときは特定の相をとって現れる仏(たとえば阿弥陀如来や薬師如来等)について説くこともある。また仏は、あるときは仏の身(己身)として現れることもあれば、いろいろな聖人・賢人(他身)として出現することもある……というのです。
 次の己事と他事については諸説がありますが、「仏の救いをそのままの形(己事)で示すこともあれば、マイナスの形(他事)を示して救いの手を差し伸べることもある」と解するのがいちばん実際的だと考えます。
 たとえば、こういうことです。食中毒を起こせば発熱・吐き気・腹痛・下痢といった症状が現れます。すると、さっそく薬を飲んだり、医者にかかったりしてそれを治すでしょう。もし、なんらの症状も起こらなければ、腸内のサルモネラ菌なり病原大腸菌なりがドンドン増え、ついに死に至るに相違ありません。ですから、発熱・吐き気・腹痛・下痢というイヤな症状が起こればこそ助かるのであって、このようなのが他事の救いなのです。

「他事」をも素直に受け取れば

 この「他事」はわれわれの暮らしの中によく起こってきます。大は政治・外交から、小は事業の経営や家庭内の問題まで。
 たとえば外交問題の場合、諸外国からさまざまな非難を浴びたり、無理難題とも見える要求をつきつけられたりすることはしょっちゅうです。
 その場合、ムキになって反発したり、敵対行動あるいは報復行為をしたりすれば、そこから事はコジれてきて、どうにもならぬ事態になってしまう恐れが十分にあります。ですから、一歩踏みとどまって、自国が過去になした行為や現在の政策にわがままや過ちがないかを反省すれば、そこから互譲と融和の道が開けてくるでしょう。
 事業の経営にしても、業績が不振に陥ったのをきっかけに、目が覚めたようになって方針を改め、人事を刷新し、生産性を高め、かえって従前より繁栄におもむいた例はたくさんあります。これも「他事」の救いにほかなりません。
 家庭の問題にしても、子供の登校拒否とか、主人の浮気とか、姑と嫁の葛藤(かっとう)といった悲しむべき事態が起こったとき、親なり、夫なり、妻なり、姑なり、嫁なりが、心の誤りに気づいてそれを直したために、以前よりはるかに温かい家庭となった例は、立正佼成会には数え切れないほどあります。
 とにかく、この「他事を示す」ということの意味をしっかりと悟れば、それがあなたの人生にどれほどの幸せをもたらすか、計り知れないものがありましょう。


関連情報