理解してくれた足元からの実践
ソ連最高会議副議長のゲラシウイ氏も、初めは「クレムリンに民間の日本人が入ってくるとは、あんたは実に度胸のいい、勇気のある人だ」などと言っていましたが、こちらが「人類は皆、仏性をもった仏の子だと信じているから、勇気も決断も別にいらないんですよ」という調子でいくので、次第に柔和になりいろいろと話し合うこともできたわけです。
その時、「ソ連とアメリカという大国同士が、もし間違って戦争を始めたりしたら、人類は滅亡でしょう」と言うと、「それはわかっている」ということで、平和でなければ人類に幸せはないと、特に強調しておりました。そこで「それだけは、どうか心に留めていていただきたい。この平和のために、私たち世界の宗教者は活動しているのです」と申し上げたのです。
やはり、何ごとも実際に見てみないとわからないもので共産主義の国というと、宗教とはおよそ縁が薄いように感じていたのですが、実際は大変盛んなのです。ザゴロス大修道院に案内されると、三百年前の建物をはじめ、数々の古い建物が立派に保存され 中に入ると、「信は荘厳より」というのは、まさにこのことかと思うほど、柱も、絵の額縁も、すべてがまぶしいくらいの黄金色に輝いています。
ちょうど礼拝中でしたが、何人もの神父さん方が、素晴らしい美声で力強い声を揃えてバイブルを唱和している、その雰囲気というのは、本当に素晴らしいものでした。
聞けば、毎年、百人以上の青年が、神父を志して修道院に入ってくる中から、特に声のいい人をとっているとのことでしたが、そういう熱心さといい、六千万という信者の数といい、ソ連の宗教の実情がよくわかると思います。
革命後六十年の年輪がそうさせたとも言えるでしょうが、その以上に、信仰というものが、人間にとってどんなに大切かを物語っていると思います。
中国に行きました時も、中国の宗教者がプリンストン会議に初めて参加をして以来、それまでとガラリと変わり、まず刑法に「政治家が宗教家に弾圧を加えた場合は、三年以下の禁固に処す」という条文が加えられ、また「去年、信教の自由を憲法に明記しました」ということも知らされました。
これは、会議に参加された代表の方々が、それぞれ、北京、南京、上海などの街で帰朝報告をし、これをきっかけに盛り上がった意向によって、原則というものを非常に大切にし、容易なことでは変更しない中国で、こうした変革をなしとげたわけで、ここにも宗教家の結束、努力が、歴然と結果を現しています。
ソ連でも今回、宗教問題評議会をはじめ訪問した各所で、世界平和や宗教協力などの問題が真剣に受けとめられ、いろいろな質問もされました。
そういう時、私は「仏教では、在家の者、つまり人類すべてに対して、まず第一に五戒というものが授けられております」ということから、不殺生戒、不偸盗戒、不妄語戒、不邪淫戒、不飲酒戒の説法をさせていただきました。その結果、世界平和という理想を実現するためにいちばん大切なものは、一人一人が足元の日常生活を整えることだということを、あちらの方もよく理解されたようです。