ソ連を訪れて
さて、ご承知のとおり、このたび、長年の希望が実現し、ソ連を訪問してきました。思えばWCRPの発足準備会のころから数えて、十四年の歳月が過ぎています。
ソ連は共産主義の国ですが、二億五千万の国民のうち、正式の共産党員というのは一千万だけだそうです。これに対して、ロシア正教の信者が六千万、イスラム教徒が五千万、それに蒙古から伝わった仏教の信者を加えると、国民のおよそ半数の人たちが信仰をもっているわけです。
革命以来六十年間、「宗教はアヘンなり」と言った時代もあったようですが、ともかく現在は、行ってみまして、宗教に対して寛大な国だというふうに感じました。
十九年前、日本の宗教界の代表十八人が、核兵器禁止を訴えて世界を回ったことがあります。その時はロシア正教と連絡がなかったせいもあって、実に冷たい態度だったのですが、今回の訪問は、この六千万の信者をもつロシア正教のご招待ということで、まことに行き届いたおもてなしを頂戴しました。
このロシア正教の渉外局長、ボロンスキー氏など、京都会議の準備会にも出席されたご縁があり、そのために大変な喜びようで、私ども一行六人に一人一人頬ずりして歓迎され、われわれ、その髭が痛くて閉口したくらいです。
WCRPを提唱した時もそうでしたが、今回のソ連訪問についてもいろいろ心配してくださる向きもありましたが、私としては、いやしくも宗教を信じる者は、会って話せば必ずわかるという考えですから、全く気にしないわけです。
お経巻に『若しは信、若しは謗、共に仏道を成ず』とあるように、仏さまは、信じる者、信じない者の差別なく、皆一様に一仏乗として抱きかかえ、舵をとっていらっしゃるわけです。ですから、余計な気を遣うことはないと思うのです。
到着しますと、モスクワ空港からホテルまで、特別仕立ての車で直行です。十字路で信号が赤になっても、お巡りさんが警棒を振ってとおしてくれるので、天下御免で、なかなか結構な気分でした。
それからは先方にお任せで「この広いソ連を訪問するのに、たった一週間ではどうにもならんじゃないか」と文句を言われたりして、びっしり詰まった日程に従って行動してきたわけです。それこそ寸暇もない忙しさでしたが、仏さまに使っていただくことを有り難く感謝して、やらせていただいた次第です。
着いたその日に、早速ロシア正教の総主教テイミンさまの特別の邸宅に招かれ、丁重な歓迎と、併せて今日まで私のやってきたことに対し、過分のお褒めの言葉を頂戴して恐縮したりしました。
その次に、外務省の極東第二部の部長さんに会って第一日の日程を終え、それからは、主として宗教関係のところを回りました。
そういうところで、大勢集まっておられる神父さん方を前に、私はいつも「私は仏教徒として、信仰についてお話し合いに参りました。人類の念願である世界平和を、どうすれば実現できるかといえば、世界中の人々が、仏教の精神を体して生活していただくことが、まず何よりも間違いのない方法だと考えております」ということを、一貫してお話してきたのです。