全ページ表示

1ページ中の 1ページ目を表示
経典のことば(47)
立正佼成会会長 庭野日敬

行道者は食を貪らず
(修行道地経 巻三)

賢い鳥の話

 お釈迦さまが舎衛国の祇園精舎で多くの人びとを集めて説法されていた時のことです。
 ある国の王は鳥の肉が好きでした。それで家来たちに狩猟をさせて、いろいろな鳥を捕らえさせました。
 捕らえた鳥はまず羽を切り、カゴの中に入れ、おいしいエサをたくさん与えて肥らせました。そして、いちばんよく肥った鳥から順々に調理の係へ回し、王の食膳に供していました。
 鳥たちの中に頭のすぐれたものがいて、こう考えたのです。
 ――肥った鳥は先に殺される。自分も、エサがおいしいからといってむやみに食べておれば肥ってしまい、そして殺されてしまう。かといって、食べずにおれば餓死してしまう。では、どうすればいいのか。食を節して、肥り過ぎもせず、痩せもせず、中道を守っていくならば、身体の元気さは変わりはないし、身が引き締まってきて立居振舞(たちいふるまい)が軽快になってくるはずだ。そのうちに切られてしまった羽もだんだん伸びて、飛べるようになるだろう――
 こう考え、そのとおりを実行し、何カ月の後に係の者の隙を見て空中へ飛び出し、自由自在の身になりました。

軍事的に肥ってはならぬ

 これはもちろん譬え話です。修行者の「食」の心得を説かれた教えです。このあとの本文に「適度に食事を取れば淫(いん)・怒(ぬ)・痴(ち)が薄くなる」と説かれています。
 現代のわれわれにとっては、このような譬え話を個人の問題としてばかりでなく、社会的に、国家的に、さらに全人類的におし広げて考えるべきだと思うのです。
 すぐに連想されるのは軍備の問題です。大正から昭和にかけて、日本は軍事大国への道を歩みつづけました。そして肥った鳥になりました。そうすると必然的に淫・怒・痴が盛んに生じ、中国を侵略し、満州国を起こし、ますます肥ろうとしました。
 そうなると、世界は黙視しません。ABCD(Aはアメリカ、Bは英連邦、Cは中国、Dは蘭領印度=いまのインドネシア等)包囲陣という経済的制裁の鳥カゴが周りにつくられ、日本は主として石油について身動きならなくなりました。そこで苦しまぎれに起こしたのが太平洋戦争です。
 その結果はどうなったか。日本は餓死寸前の状態になりました。しかし、弱りきったために鳥カゴの戸口が開かれ、どうやら自由が得られましたので日本は懸命になって身体の回復に努力しました。もともとは賢い鳥だったので、みるみる健康体となり、世界が驚くほどの経済大国になったのはご存じのとおりです。
 ところが、最近になって、またまた空気が怪しくなってきました。軍備の食事を増やそうとしています。それがいかに愚かな所業であるかは、過去の経験によって明らかなはずです。しかも、今は核という絶対的な鳥カゴが取り囲んでいるのです。肥れば肥るほど危うくなります。
 日本人は、この譬えにあるように真の意味で頭のいい鳥にならなくてはなりません。肥り過ぎもせず、痩せもせず、すべてに中道を守っていくべきでしょう。そうすれば、近隣の国から憎まれることもなく、進退が身軽になり、どんな変化にも適応していけるようになりましょう。それが国家としてのほんとうの自由自在だと思うのです。
 国民の一人一人がこのような考えを持ち、それを強調していけば、国もそれに従わざるをえないでしょう。くれぐれも、再び肥った鳥にはならないことです。
題字と絵 難波淳郎

関連情報