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人間釈尊(27)
立正佼成会会長 庭野日敬

永遠不滅の大布施

信仰の喜びに燃える富豪

 前回の話の続きになりますが、舎衛城から息子の嫁とりに来たスダッタ(給孤独長者)は、思いがけなくもゴータマ・ブッダという尊い師にお目にかかり、教えを受けることもできました。
 そして、護弥長者がブッダをご招待申し上げたご供養の席にも連なることができました。このようなすがすがしい感激は生まれて初めて味わうものでした。
 お食事が終わって、ブッダが鉢と手を洗い終わられたのを見て、スダッタはおん前に進み出て申し上げました。
 「世尊。願わくはわたくしのおりますコーサラ国の舎衛城にも布教にお出かけ頂きとう存じますが……」
 世尊は深くおうなずきになりました。
 「ありがとうございます。わたくしは全財産をなげうっても、世尊とお弟子方のために精舎を建設いたします」
 「いや、スダッタよ。出家修行者は林の中や空き家での修行を楽しむものです」
 雨季以外は一滴の雨も降らないインドでは、森林や野原に寝ても平気だったのです。しかし、道も田畑も水びたしになる雨季にはそうはいきません。布教の旅もできないので、ある一ヵ所にとどまって座禅その他の修行をするのが教団のしきたりになっていたのです。これを雨安居(うあんご)、または夏安居(げあんご)と言います。そこでスダッタは申し上げました。
 「世尊よ。雨安居ということもございます。ぜひ精舎の建設をお許しくださいませ」
 世尊は黙っておうなずきになりました。さあ、スダッタの胸は燃え上がりました。また、結婚の話も護弥長者の快諾を得ましたので、スダッタは足も地に着かないような気持ちで舎衛城へ帰って行ったのです。

(祗園精舎)縁起

 帰り着くやいなや、スダッタは適当な土地の検討を始めました。城外で、町から遠からず近からず、静かで景色の美しい所……と探してみたところ、祇陀(ぎだ)太子の所有される園林しかないという結論に達しました。
 そこで太子を訪れ、その土地を譲ってくださいとお願いしたところ、太子は冗談半分に申されました。
 「あの土地全体に金貨を敷きつめたら、それと引き換えに譲ってやろう」
 スダッタは、家に帰ると早速使用人たちに命じて、その土地に金貨を敷き始めたのです。それを聞いた太子は驚いてスダッタのところに飛んで来て、
 「やめなさい、スダッタよ。あの土地はわたしに返しておくれ。わたしがそのゴータマ・ブッダという尊いお方に寄進しよう」
 スダッタは考えました。――祇陀太子は広く世に聞こえた実力者だ。あの高名なお方が信仰を起こして寄進されたとあれば、ブッダの教団も大発展するに違いない――と。そして、その場で太子の申し出を受け入れました。
 まず太子が門屋を造り、スダッタが大金を惜しげもなく注ぎこんで、道場から、宿房から、料理場から、蒸気ぶろまで完備した大精舎を造り上げたのです。そして、その名を(ジェータ(祇陀)・ヴァーナ(園林)・ヴィハーラ(精舎))と名づけました。自分の名前を表に出さないところに、スダッタの奥ゆかしさがしのばれます。しかし、中国の人がそれを漢訳するとき給孤独(ぎっこどく)長者の名を入れて(祇樹給孤独園)としました。それがわが国でいう祇園精舎にほかなりません。
 お釈迦さまがその精舎で数多くの尊い教えをお説きになり、ハシノク王をはじめ多くの人々を教化され、舎衛国を舞台としてさまざまな信仰美談が生まれたことを思えば、スダッタの布施は永遠不滅の大功徳であるということができましょう。
題字 田岡正堂/絵 高松健太郎

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