──国連軍縮特別総会非政府機関代表演説───
国連軍縮特別総会に寄せて
世界宗教者平和会議名誉議長 庭野日敬
この国連軍縮特別総会が、世界宗教者平和会議の一員である私に、提言の機会を与えてくださいましたことに対し、まず、御礼を申し上げたいと存じます。
私は仏教徒でございますので、仏陀の言葉を引用させていただきますが、仏陀はこの世界を称して『三界は安きことなし なお火宅の如し』と説かれております。人間のあくなき貪欲と、それから生ずる奪い合いや争いのために、人類は自ら苦しんでいるという世界の状態を、仏陀は火宅をもって譬えられているわけであります。
事実、私達はすでに広島、長崎において、文字どおりこの火宅の苦しみを経験しているにもかかわらず、依然として、それを反省せずにいることを仏陀は嘆いておられるのであります。
ところで、宗教の過去の歴史は、偏見と憎しみの歴史でありました。しかし、私は宗教の目指すところは本来一つである、という信念を持っておりました。ところがローマ教皇パウロ六世猊下が一九六五年の第二バチカン公会議において、過去二千年の歴史をくつがえして異教徒の私をお招きくださり、『キリスト教徒が仏教徒のために祈り、仏教徒がキリスト教徒のために祈る。宗教者がそのようにならなければ、人類に貢献する道はない』と言われたことを、私は忘れることができないのであります。
こうして、十年間にわたる宗教協力活動を積み上げた結果、世界宗教者平和会議が誕生し、その国際本部を国連の前に設置いたしたわけであります。そして現在、世界宗教者平和会議は六十か国以上の主たる宗教の代表によって組織され、戦争の放棄、さらに一歩進めて、戦争を起こしかねない条件の排除を大きな目的として努力いたしております。
京都で開催されました第一回世界宗教者平和会議では、『軍備に基づいて築かれた社会は、正義に基づいた共同社会を否定するものである。よって軍縮の達成なくして正義はなく、正義の確立なくして、真の平和もまたあり得ない』ことを宣言したのであります。
私達、仏教徒、キリスト教徒、神道人、ヒンズー教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒をはじめとする世界の各宗教者は、各自の宗教的伝統をたいせつにすると共に、世界平和実現のために、私達宗教者に共通の真理、倫理的洞察に基づいて、世界の政治家が行動されんことを心から願う次第であります。
かかる観点から、世界宗教者平和会議は国連の諮問機関として加盟し、私どものホーマー・ジャック事務総長は国連本部のNGO(非政府機関)軍縮委員会の発足以来、その議長を務めているわけであります。
さて私達は、日本およびベルギーで開催された過去二回にわたる世界宗教者平和会議の精神に基づいて軍縮への根本的アプローチについて、次のとおり提言したいと思います。
一、宗教者として私達は、軍備競争の終結のために活動している世界の外交官に対し、今や計画的、偶発的、もしくはテロ行為による核戦争の危険性が、極めて増大しつつあることを訴えたい。私達の会議の言葉を引用するならば、『人類が核による絶滅に脅かされている現在、人類は、軍備競争によって滅亡する前に、人類が軍備競争を終わらせなければならない。最も基本的な人権とは、人類がその生存を持続するということにほかならない』
二、宗教者として私達は、軍縮問題がいかに複雑な技術的問題であっても、究極的には心の問題と倫理的決断に待つ以外にはない。生命の尊さを無視するような政府の決定は、いかに上手な言葉をもって言いくるめようとも、人々をごまかすことはできない。
三、宗教者として私達は、世界の為政者、特に偉大なるカーター大統領閣下とブレジネフ書記長閣下に対し、『危険をおかしてまで武装するよりも、むしろ平和のために危険をおかすべきである』ということを申し上げたい。私達は、軍縮に向けて、あらゆる国で運動が展開されんことを切望する。
四、宗教者として私達は、平和を希求する人々の団結を願うものである。平和を願う私達の祈りは静寂であり、その声は、ささやかなものであり、影響力は小さいかもしれないが、すべての人々が世界平和を渇望し、第三世界をはじめ、すべての世界の人々は軍備競争の終焉がもたらす経済的成果を待望している。
五、宗教者として私達は、世界の安全が力による恐怖の均衡ではなく、新しい価値観に基づくものでなければならないことを提案する。世界に一万五千以上の戦略核兵器が存在する現在、いかなる国も、人間も決して安全ではあり得ない。
六、したがって、もし人類が今世紀に生き残ろうとするならば、全面的完全軍縮の実行以外にはあり得ない。目下、進められている軍縮に関する各種の計画は、まだ軍縮というよりも、抑制の域を出ないものであるが、やがては、これも総合的完全軍縮への橋渡しとなるであろう。武器による威嚇をもって政治を行なうことの愚かさを反省していただきたい。
七、NGOの宗教者として、この特別総会に向けて努力された非同盟諸国に対し、称讃の意を表するとともに、このNGOと国連における軍縮問題との関係が、制度化されることを心から願うものである。さらに私達は、国連が軍縮問題を最優先課題として推進されることを強く主張する。
私達は、核拡散防止条約第六項の履行が、倫理的、道徳的、宗教的にもかなっているという理由から、これが優先されんことを提案いたしたい。
すでにご承知のごとく、目下、日本代表団によって広島、長崎の被爆写真が、この国連内に展示されておりますが、その悲惨さは目を覆うものがございます。日本から持参された、それらの写真のうち何枚かは、余りの悲惨さの故に、「展示を遠慮して欲しい」との要求があったと聞いております。
しかし、どうかその地獄の苦しみの様相から、目をそむけないでいただきたい。そして、この特別総会の宣言草案にもあるがごとく、『私達は武器をとかねばならない。さもなくば滅亡あるのみである』という言葉を今一度思い起こしていただきたいものであります。
私達は、国連がさらに強化され、この混乱した世界に法の秩序をもたらす能力を持っていることを確信しております。そして、私達はそれぞれの宗教と宗教の信者をあげて、この歴史的な国連特別総会が有意義な成果を収められるように祈っております。そして、国連加盟諸国が現状の流れを変え、平和と真の進歩のために立ち上がることをも、併せて祈念いたす次第であります。
最後に私は、仏陀の説かれた『今此の三界は 皆是れ我が有なり 其の中の衆生は 悉く是れ吾が子なり 而も今此の処は 諸の患難多し 唯我一人のみ 能く救護を為す』とのお言葉をご紹介して、神仏の等しき子であり、兄弟であるべき人類が血を流し合うことの愚かさと罪深さを反省されんことを強く促したいのであります。さらに、私は、核の廃絶は夢物語であるという人々に対して、人間学の深い洞察の言葉──あらゆる人が心の底から願うことは、決して実現不可能なことではない──という言葉に加えて、日蓮聖人の『法華経行者の祈りの叶わぬことはあるべからず』という信念の言葉を添えて贈りたいと思います。
一天四海は、これすべて妙法に発し、妙法に帰するものであって、私達人間が天地万物を貫く真理に随順し、異体同心のもとに助け合ってこそ、天地は窮まることなき平和境(天壌無窮)となるのであります。全人類が心を一つにして平和を祈念するとともに、国連の強化と、さらには世界政府樹立に努力するならば、核兵器は無用の長物となるのであります。
私は人類の未来を信じつつ、全世界の為政者に対し、心の変革(回心)を願い、神仏のご加護を祈念して私の提言を終わりたいと思います。
ご静聴、まことに有り難うございました。 (国連本部総会議場で)
昭和五十三年六月十二日
国連軍縮特別総会非政府機関代表演説
タイトル名
庭野日敬法話選集_第6巻_00_01_国連軍縮特別総会非政府機関代表演説-01
タイトルヨミ
ニワノニッキョウホウワセンシュウ_ダイ6カン_00_01_コクレングンシュクトクベツソウカイヒセイフキカンダイヒョウエンゼツ-01
作成者
佼成出版社
(
コウセイシュッパンシャ
)
作成日
1979-03-05
和暦
昭和54年03月05日
言語
jpn
ボリュームタイトル
庭野日敬法話選集
ボリューム
第6巻_第0章_第1節
人物キーワード
庭野日敬,開祖さま,パウロ六世,日蓮聖人
内容
──国連軍縮特別総会非政府機関代表演説───国連軍縮特...
国連軍縮特別総会非政府機関代表演説
国連軍縮特別総会非政府機関代表演説