心が変われば世界が変わる38

  • 心が変われば世界が変わる
     ―一念三千の現代的展開―(38)
     立正佼成会会長 庭野日敬

    先祖の霊との心の通じ合い

    法華経に見る生まれ変わり

     人間同士および動物・植物など目に見える存在との心の通じ合いと同時に、目に見えぬ存在との心の通じ合いが、これまた非常に大事なことです。目に見えぬ存在といえば、神・仏から先祖の精霊にいたるまでの心霊でありますが、ここではまず先祖の精霊について考えていくことにしましょう。その前提として、霊魂とか魂とか言われるものについて、考えを確立しておくことが大切だと思います。
     法華経の神髄は(すべての人が仏になれる)ということです。そして、お釈迦さまはたくさんのお弟子たちに「そなたも必ず仏になれる」という保証を与えられています。これを授記と言います。その授記に際しては、必ず、何度も生まれ変わり、多くの仏のみもとで修行した後に……という条件がつけられます。お釈迦さまご自身も、提婆達多品では「はるかなむかし仙人のしもべとなって教えを聞いた国王は、じつはわたしの前世の身である」とお語りになり、常不軽菩薩品でも「往昔の常不軽菩薩こそは、現在のわたしである」とおおせられています。
     ということはつまり、(肉体は死んでも人間の魂は不滅であり、その世でなしたすべての行為(心でなした行為をも含む)の累積によって、次の世にはそれにふさわしい生を受ける)ということであり、言い換えれば、(人生は魂の修行の場であり、魂の浄化のためになんどでも地上に生まれ変わって修行を繰り返さなければならない(これを輪廻という))ということです。
     そして、真理(宇宙の根本法則)を悟り、真理の道を行ずることによって、ほとんど完全に魂の浄化のできた者は、浄土の人となります。これを出離といい、仏の境地へはまだまだ距離があるとはいえ、魂の進化の一応のステップなのであります。

    霊魂の有無について

     霊魂の有無がよく問題になりますが、(空)の理から考えていけば、すぐ明快な答えが出ます。人間の肉体は現実にチャンとここにあるようですけれども、実はこれも(空)がつくり現しているものであって、われわれが知覚するとおりの姿で実在するものではありません。現代の原子物理学は、すべての物質はいろいろな原子からできており、その原子は幾種類かの素粒子からできていることをつきとめています。その素粒子たるや、顕微鏡でさえ見ることのできぬモノなのですから、つまり原子物理学からしても、われわれの肉体は知覚するとおりの姿で実在するものではないのです。
     (空)もしくは原子物理学の理によって「肉体はない」と否定するのなら、同じ理によって「霊魂はない」と否定することもできましょう。しかし、この肉体をわれわれが現実的に「ある」と見ているのと同じ意味からすれば、霊魂もやはり「ある」のです。
     心霊学者たちの一致した意見によれば、人間が死んだら、肉体をつくっていた構成要素(厳密にいえば(空))が、肉体よりもっと精妙な、半物質ともいうべき体(幽体)をつくり、死んだ肉体から遊離し、魂はその幽体の中に宿って存続するものと言われています。

    先祖供養の意義と功徳

     いずれにしても、われわれは霊魂の存続を確信しております。さればこそ、わが会では先祖供養ということを日々の大事な行としているのです。入会したらまず最初に、その家の先祖の総戒名をお祀りいたします。総戒名には、先祖の血を受け継いだ現在の子孫たちが、人格を向上して自ら仏法にかなった人間になることが、とりもなおさず先祖への回向であるという意味が教えられています。そのことは、朝夕のご供養の最初に唱える次の(回向唱)にも明記されています。
     先祖代々過去帳一切の精霊、別しては今日命日に当る精霊、志す所の諸精霊等に回向し、併せて我等おのおの心得違い、思い違い、知らず識らずに犯したる罪咎を懺悔し奉る。
     仰ぎ願くば読誦し奉る大乗経典甚深の妙義により菩提心を発さしめ給え。
     そうした本質的な回向と同時に、現在のいのちを与えてくださった先祖の恩に感謝し、その成仏を祈る願いがこめられることは、言うまでもありません。
     このように、先祖代々の諸精霊に直接呼びかけ、心を通じ合うのが先祖供養であります。そうして、読誦するお経の経力によって先祖代々の諸精霊は、安らぎを得、成仏へと向かわれます。しかも、現世のわれわれと霊界の先祖の霊とは別々の存在ではなく、無限のいのちの糸に繋がれた一連の存在なのです。こういう心の交流こそが、宗教をイデオロギーとしてだけ捉えていては得られない、いわゆる信仰ならではのありがたさではないでしょうか。(つづく)

     楊柳観音立像頭部(大安寺)
     絵 増谷直樹