心が変われば世界が変わる29
心が変われば世界が変わる
―一念三千の現代的展開―(29)
立正佼成会会長 庭野日敬万物・万象はどう変化するか
十如是は現象の実相を解明
十界の中にそれぞれ十界が具わっているという(十界互具)については、前回までに説明しましたが、それらの心と物の相即した世界は片時として固定してあるものではなく、諸行無常の理の通り、常に変化してやまないものであります。では、それらの世界はどのようにして在り、どのように変化するかという(諸法の実相)を解明したのが、法華経方便品に出てくる(十如是)の法門です。
如是相・如是性・如是体・如是力・如是作・如是因・如是縁・如是果・如是報・如是本末究竟等。
現代語に意訳しますと、「すべての現象には、それぞれもちまえの姿・形(相)があり、もちまえの性質(性)があり、もちまえの構造―空の集まり方―(体)があり、もちまえの潜在エネルギー(力)があり、その潜在エネルギーが発現して作用(作)を起こすときは、然るべき原因(因)と、その原因を助長する条件、(縁)とによって、然るべき結果(果)を生み、それは周囲に然るべき影響(報)を残すものである。それらの変化は、見かけは千差万別に見えるけれども、実相においては、初め(本)から終わり(末)まで一貫して等しく宇宙意志にもとづく宇宙法則につらぬかれているのである。(本末究竟等)」ということになります。物心一如は生化学からも
このままでは難しそうな理論ですので、わかりやすい卑近な例を引いて説明しましょう。
朝顔は赤・白・青・紫などのラッパ型の花を咲かせます。これが朝顔のもちまえの相です(如是相)。相のあるものには、その相を現す本になるもちまえの性質(如是性)があります。ある朝顔には白い花を、ある朝顔には赤い花を咲かせる性質があります。
ところが性質というものは、そのものの本体から生じたものです。本体といっても元はただひといろの(空)なのですが、宇宙意志があるものを造り出すときは、(空)にそのもの特有の構造を与えます。朝顔の種子を割ってみても、なんら赤い色素も青い色素もありませんが、それぞれの種子には赤なら赤、青なら青の花を咲かせる遺伝子がちゃんと存在しているのです。
その遺伝子の本体が、DNA(デオキシリボ核酸)という螺旋状の高分子構造をもつ極微の存在であることは、今日ではもはや常識となっています。このDNAは(物)であるとも言えますが、自分自身にちゃんと記憶をもち、その記憶にもとづいて命令を発して蛋白質を合成させるというのですから、(心)であるとも言えるわけです。仏教でいう(物心一如)が、こうした現代の生化学からも裏づけられようとしているのです。ともあれ、ものの性質(性)は、宇宙の大生命がそのものを造り出す時に与えた特有の構成にもとづくものであって、この構成を(如是体)というわけです。
次に、(体)のあるものは必ずもちまえの潜在エネルギーをもっています。朝顔の種子には、発芽して成長する力を秘めています。これが(如是力)です。(力)は、機会があれば発現していろいろな作用を起こします。朝顔の種子に潜む(力)は、発芽して、つるを伸ばし、葉をつけ、花を咲かせます。こうしたもちまえの作用を(如是作)というのです。一貫して宇宙意志による
そういう作用を起こさせるのは、元の元を探れば宇宙の大生命の意志による、ある原因であります。これを(如是因)と言います。ところが、宇宙の物象は一つとして独立しているものはなく、必ず他の物象と複雑に関係し合って存在し、変化するもので、ある原因にそれを助長する周囲の条件が加わってこそ、ある結果を生ずるのです。朝顔の種子について言えば、適当な土壌と、水分と、温度等です。このような条件を(如是縁)というのです。このような(縁)の助長によってそれにふさわしい発芽という結果が生ずるわけです。これを(如是果)と言います。また、結果は、たんにそれが生じたということだけでなく、他に対する何らかの影響を残すものです。たとえば、朝顔の花が咲いたのを見て人々が「美しいな」と感ずることなどがそれです。ある結果にふさわしいその影響を(如是報)というのです。
ところで、これまでに見てきた変化は現実世界では複雑微妙にからみ合っていて、人間の智慧では判別し難い面も多々あるのですが、その実相においてはハッキリしており、初め(本)から終わり(末)まで一貫して、宇宙の大生命の意志とその法則にもとづくものであることに変わりはありません。このことを(本末究竟等)というのです。
さきに(十界互具)であるから十掛ける十で(百法界)であることを言いましたが、その百法界はいま述べた(十如是)の法則によって変化しますので、百掛ける十は千で、千種類の世界が展開することになります。これを(百界千如)と言います。もう一息で三千ということになりますが、それは次回に説明いたしましょう。(つづく)仏頭(アフガニスタン)
絵 増谷直樹